ことばを話すさいには,わたしたちは呼吸器,喉頭,鼻咽腔,舌,唇,顎といった器官を使っています.これらの器官は,発声発語器官(発話メカニズム)と呼ばれています.ディサースリアというのは,神経や筋肉の病気を原因としてこうした発声発語器官のどこかに運動障害が起こりうまく話すことができない状態をさします.脳卒中後に舌とのどに麻痺が起こって呂律が回らない,というのは典型例です.
しかしディサースリアを引き起こす運動障害というのは,麻痺だけではありません.失調症や不随意運動などの筋肉の活動の異常も含まれます.また,脳卒中以外に様ざまな神経や筋肉の病気を原因として起こります.
ディサースリアとともに知られている言語障害として,失語症があります.しかし,ディサースリアと失語症はまったく別の障害です.失語症の方がうまく話すことができないのは,ことばの記号を操作する機能そのものが障害されることによります.発声発語器官の筋肉の機能に問題はありません.このようなことばの記号が障害されますと,話すこと以外に,聴くこと,読むこと,書くことが難しくなります.大多数の成人の方では,左大脳半球に言語中枢と呼ばれている領域があり,ことばの操作機能を司っています.失語症は,この領域の損傷によって起こるのです.
これに対して,ディサースリアの方々はこのような言語という記号を操作する能力は正常です.ですから,聴く,読む,書く能力はすべて正常です.ディサースリアの方は正常にニュースを聞きとったり新聞を読んだりすることができます.手に障害がなければ,正常に日記を書くことができます.ディサースリアの方がうまく話すことができないのは,あくまでもことばを話すときに使う筋肉の活動が障害されているからなのです.
さてディサースリアが起こると,しばしば社会生活に様ざまな制約が生じます.発達の途上であれば,将来に大きな影響を与えます.しかし,適切なリハビリテーションを受けることによって障害を克服できる場合が少なくありません.
リハビリテーションは,様ざまな観点から実施します.発声発語器官の運動障害は,機能改善訓練によって回復を図ります.たとえ後遺症として機能障害が残存したとしても,補助具を用いたり話し方の工夫をするといった代償的アプローチでうまく意図を相手に使えるようにします.残存した発声発語器官の運動障害が重度であるために口頭で意図を表出することができないとしても,筆談や声の出るコンピューターなどを活用して意図を表出することができます.重度の手の障害も合併しているからといって,あきらめることはありません.センサー・スイッチを用いてコンピューターを操作することができます.こうした点でティサースリアは代償性が高く,リハビリテーションのやりがいのある障害であるといえましょう.
こうした専門的なサービスを提供するのは,言語聴覚士(ST)と呼ばれる専門職の方々です.言語聴覚士は,医療機関,保健・福祉機関,教育機関などで活動しています.