高齢者に対して日常生活の支援を行うための公的保険制度として介護保険が2000年に始まり、2006年の改正にて予防重視型システムへの変換が図られました。これが、介護予防の始まりです。この改正にて取り上げられた6つの介護予防事業の一つに口腔機能の向上が盛り込まれました。以降、口腔機能向上プログラムが推進されてきました。

ところが、現実には学際的に有効性が検討された実用的プログラムは普及しているとは言い難く、専ら古典的な口腔体操もしくは類似したものが国内で広く施行されているのが現状であると推察されます。口腔体操は過負荷の原理など運動生理学的原理原則から大きく逸脱しているため、加齢に伴う筋萎縮、筋力低下を予防する効果はほとんど期待できません。今こそ、私ども言語聴覚士はその専門性を発揮し、地域住民の健康増進に本当に役立つ口腔機能向上プログラムを提供することが求められています。

こうした中で、2025年度問題に対応した真に有効な口腔機能向上プログラムを考案する必要性を本研究会会長である西尾正輝氏はかねてから主張し、2021年にMTPSSEとして完成させ、2022年にはその一般向けプログラムとして「ノドトレ」を発表致しました。

日本ディサースリア臨床研究会は、発足以来約20年間、国内におけるディサースリアと摂食嚥下障害にかかわる治療技術の臨床的進展に貢献すべく活動を展開して参りました。2023年度第1回理事会にて、上述の現況を鑑みて、今後は治療領域ばかりでなく、介護予防領域の進展を積極的に推進していくことが決議されました。嚥下関連筋群の加齢に伴う筋萎縮、筋力低下を予防し、地域住民の健康増進に寄与できるレジスタンストレーニングを普及させる啓発的活動を推進して参りたいと思います。

口腔体操に代わってMTPSSEもしくはノドトレのようなレジスタンストレーニングを日本全国で普及させ、これと同時に、私ども言語聴覚士が口腔周辺機能のリハビリテーションの専門家であることを自覚し、フレイル、サルコペニアに伴う老嚥や摂食嚥下障害の予防に共に努力し、新しい時代を築いていく所存です。