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第1回日本ディサースリア学術集会を開催するにあたって
ディサースリア
臨床研究会
 ディサースリアの歴史は,「診断の時代」,「治療の時代」,「臨床方針決定の時代」の3期に区分されます.第1期である「診断の時代」は,1969年に発表された古典的なDarleyらによるメイヨ−・クリニックの報告をもって完結し,1970年代に全盛期を迎えました.この時代の情報は国内にもすみやかに伝えられ,発展しました.

 第2期である1980年代の「治療の時代」に入ると米国ではディサースリアの評価ならびに言語治療技術が進展し,一連の手法が開発されました.こうした時代を経て,エビデンスに基づいて臨床方針を決定する今日の「臨床方針決定の時代」に入っています.

 ところが,国内におけるディサースリアの領域では,Darley らが築いた「診断の時代」でその歩みが滞ってしまい,いわゆる「空白の25年間」が生じてしまいました.このため,国内の言語聴覚士の多くは,1980年以降にアメリカを中心として進展し体系化された言語治療技術について教育を受けることもないまま,極めて古典的なアプローチを臨床で施行してきたというのが実態ではないでしょうか.

こうした閉塞的な国内におけるディサースリアの臨床状況を打破すべくして,日本ディサースリア臨床研究会が設立されたのは,2002年のことでした.以来,本研究会が主催した様々なイベントを通して,欧米で蓄積された豊富な知見と技術が積極的に国内に導入されるようになりました.ペーシングボード,リズミック・キューイング法,リー・シルバーマンの音声治療(LSVT)など多様なディサースリアの言語治療手技が国内に普及し,今日では,これらは言語聴覚士国家試験でもしばしば出題されるまでになりました.発足当時,ほとんどこうした言語治療手技の名を知っている言語聴覚士はほとんどいない時代でした.

 このようにふり返りますと,本研究会が過去約10年間に果たした役割は大きかったといえましょう.確実に,この国のディサースリアの言語治療スタイルを進展させ,改変させたと思います.しかし,ディサースリアに関するエビデンスは,国内ではなおも深刻に不足しているといわなくてはなりません.また,新しい治療技術が国内で普及する一方で,国内における言語聴覚士の質的格差があまりに大きく拡大してしまったように思われます.

 私たちはこれまで全力で走り続け,今,歴史の新しい扉を開こうとしています.研究会発足から10年を経て皆の智を結集してここに学術集会を開催するとともに,エビデンスを蓄積し続け,ディサースリアのある人たちがより良い治療サービスを受けることができることを願い臨床技術のさらなる向上をめざしましょう.