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新人の言語聴覚士の方々へ:臨床の面白さを持続させるために
ディサースリア
臨床研究会

 言語聴覚士になることは容易ではないが,難しくもない.そこそこの努力をすれば,実現する.必要な過程は,認定された養成校で然るべきカリキュラムを修めて卒業し,国家試験に合格することである.国家試験の水準も,格別に高いとは思えない.従って,個人の能力には著しい差がある.

 しかし,良い言語聴覚士になる人は限られている.良い言語聴覚士になるためには多くの条件が必要であり,その中にはもちろん養成校時代に養った知識と技術の程度,豊かな人間性,倫理観なども反映するであろう.

 しかしこれらをある程度の前提的条件としてとらえ,良い言語聴覚士になるためにとりわけ重要な要因のひとつとして,ここでは卒業後の最初の5年間の過ごし方について着目したい.実際にどんなに優秀な学校を優秀な成績で卒業しても,この期間の過ごし方が不適切であると,残念ながら,つまらないSTになっていく.実際に,そうした方々を多数みてきた.

 経験豊かで指導能力の高い先輩がいるというのは,恵まれた環境ではある.しかしそうした施設に就職できる方はごく限られている.それに,至れり尽せりの環境に育つと,人は努力を怠る傾向にある.臨床に関することは,いつも手取り足取り教えてくれるのが当たり前,とさえ感じてしまう方もいる.むしろ,施設に先輩がいなくて知識と技術に飢えている方の方が,興味高いことに,たくましく成長することがしばしばある.

 まず,自身を成長させるには,近隣のSTたちの間で開催されている勉強会などに積極的に参加することである.少しくらい遠くても質の高い勉強会には労を厭わず参加することである.良い勉強会に参加するために往復4,5時間を要するくらいの意欲を持とう.かつて私は千葉県の旭というところに住んでいたが,都内の勉強会には,片道4時間もかけて通っていた.そうした時代がなかったならば,間違いなくその後の私はなかったと思う.

 また,泊り込みの研修会のようなものにも,どんどん参加することである.交通費や参加費など経費はかかるが,授業料と思って感謝して参加したい.ディサースリアの領域では,理学療法士のための勉強会に参加することも役に立つ.臨床1,2年目の頃,私は呼吸理学療法やトランスファーなど様ざまなPTの講習会に多数参加した.ボーナスが出れば,全額を使って米国に研修に出かけた.勤務中は長期間の休暇を取ることが難しいので,僅か4日間の研修会に旅費を合わせると40万円も使用することもあったが,惜しいとは思わなかった.

 臨床に就いて最初の5年間は,研修期間として考えよう.一人前になるには,少なくとも5年はかかるものである.最初の5年間は,貯金をすることなどに関心を持つ余裕がない.少しでも,本を買ったり,講習会や研修会に出かけることで精一杯なものである.そして,確実に自分が成長してゆくことが最大の楽しみであるはずである.新人の期間は,飛躍のための最大のチャンスである.すべての人にこのチャンスは与えられている.人生において,お金は貯金できてもチャンスは貯金できない.

 このように外部に積極的に出て自己研鑽に励むのとは逆に,毎日9時や10時まで勤務施設に残って業務にいそしんだとしても,望ましく成長するとは期待できない.なぜなら,人は外部から刺激を受けて,常に成長しつづけることによって,自分の仕事に魅力を感じつづけることができるからである.こうした臨床生活では,自分のマンネリ化した自己流のパタンに甘んじてしまう危険がある.臨床が惰性化し,つまらなくなってしまう危険もある.早晩,臨床はやっつけ仕事にさえなりかねない.水は流れが止まってしまうと腐ってしまうのである.

 いつも同じであっては,いけない.卒業時には魅力いっぱいで新鮮であったに違いないSTの業務もつまらなく感じてしまうものである.成長しつづけなくてはならない.STを行なっている限り,新人も,経験豊かな方も,成長し続けなくてはならないのである.そして,成長するためには,栄養を取り入れつづけなくてはならない.そうした場に複数かかわっておくことが大切である.複数というのは,一つの会にのみ専心すれば,見方が偏ってしまうおそれがあるからである.

 ちなみに,ディサースリア臨床研究会の定例会は,良い成長の場となっていることを請け合うことができる.誰も分かっていないことを検討しあって,自分の中に知見を蓄えてゆくことは快感でもある.関東支部定例会では,東北や関西,北陸などから参加なさる方もいらっしゃるが,それだけ得るもののある場であると自負している.また年間講座も役にたっているようだ.こちらの方では,片道12時間もかけて四国から1年間夜行バスで通っていらっしゃる方もいた.10時間をかけて青森から通っていらっしゃる方もいた.こうみると,新幹線で2時間というのは近いとさえ感じられる.

 さらに,様ざまな勉強会の場で,新人の方は進んで雑務を買って出,経験のある方は指導を担当することによって会の活動に参与したいものである.すべてがボランティアであり,こうした精神によってこそ全体が進展することを体験から学ぼう.決して,お客さんに甘んじるのは望ましくない.積極的に社会的活動に参与しつづけることの意義と喜びを早くから体験できた方は幸いである.こうした方は先輩方から可愛がられ,より多くの機会に恵まれることにもなる.

  外に出て自己研鑽に励む努力は,必ず報われる.何よりも,ディサースリアの臨床が面白く感じられるようになり,あるいは,感じつづけられるのである.そして,やがては自信となって蓄えられる.STとしての自信とは「ある」ものではない.努力によって蓄えるものである.

 くり返すが,臨床の場に就いて最初の5年間は研修期間として位置づけたい.5年を経たとき,きっぱりと分かれる傾向がある.栄養状態が良好であるか,不良であるか,のいずれかである.さて1年後,あなたにとって,ディサースリアの臨床はどれほど面白くなっているだろうか?