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失語症との違い

                                 
  
思考過程
     ↓
 言語学的過程
     ↓
 生理学的過程
     ↓
 音響学的過程

 発話の生成過程

 ディサースリアと失語症のような言語の障害との区別は,模式的に上に示した発話の生成過程から考えると理論的に明確になります.まず発話を生成するには発話の内容について考える過程があります(思考過程).次に,抽象的な情報内容を言語規則(意味,統語,音韻規則)に従って記号化する過程がつづきます(言語学的過程).その後,記号化された情報内容を話しことばとして実現するために,中枢神経系から末梢神経系を経て効果器である発声発語器官に神経インパルスが送られ,呼吸器,喉頭,鼻咽腔,口腔構音器官といった各器官で発話運動のための筋活動が起こります(生理学的過程).こうして発話が生成され,音声波として空気中を伝播します(音響学的過程).

 この発話の生成過程の中で,失語症とは言語学的過程の障害に分類されます.これに対して,ディサースリアとは生理学的過程の障害です.換言しますと,失語症は言語(language)の障害であり,ディサースリアは発話(話しことば;speech)の障害であるということです.両者はまったく別の障害です.

 ディサースリアと失語症のような言語の障害との区分は,臨床的なプロフィールからも読みとることができます.失語症の方は言語記号を操作する能力が障害されます.従って,聴く,話す,読む,書くのすべてのモダリティに障害が認められます.これに対してディサースリアの方の場合,言語記号を操作する能力は正常であり,聴覚的な理解力,文字を理解する能力,文章を書く能力はいずれも正常なのです.

 つまり,ディサースリアの方は正常にニュースを聞きとったり,新聞を読んだり,日記を書いたりする能力を保持しています.ディサーアリアの方がうまく話すことができないのは,あくまでも発声発語器官の神経筋機能が障害されているからなのです.言語記号を操作する能力が正常に保持されているということは,たとえ発声発語器官の運動障害が重度であるために口頭で表出することが困難であっても,上肢に運動障害がない限り,書字を用いると正常に意図を表出することができるということを示しています.

ディサースリア
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